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SPECIAL Interview
No Guarantee web magazine(2025.1)
Utami Hayashishitaインタビュー vol.2

Utami Hayashishita STORY

赤いベルトを巡り舞華と熱戦を繰り広げた

朱里はまた、異なるタイプのライバルだった
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Utami Hayashishita
エリートと言われながら。私は私らしく頑張るだけ。
後に小川氏が「詩美はエリートとして育ててきた」と言うように、当時の周囲の見方も、普通の新人を見る目とは異なる見方ではあった。
「デビュー当時からなんですけど。試合終わりに反省を聞きにいったときに。普通のデビュー戦の子だったら、新人だったらこれでもいいかもしれないけど。詩美はビッグダディというのもあって、人と見られ方が違うから、これじゃダメ。人より何倍も頑張らないとダメだよと言われました。ビッグダディというのが、どこまでもついて回って。私は人と見られ方が違うから。じゃあ、もっと頑張んないと思って、めちゃくちゃ練習してました。“詩美は下積みはないから、特別扱いされてるから”というのは、デビューした時から言われてました。だからこうしないと、とかは言われてないですけど。そう言われたから、そうしなきゃというのはありました。同期には、飯田沙耶がいますけど、後輩同期みたいなもの。練習生の同期はいたんですけど、私とできることが違っていたので。プロテストを受けれるかどうかというテストがあったんですけど、私は受かったんですけど、その子が落ちちゃって、いろいろ話してる時に、“詩にはわかんないよ“と言われました。練習生の頃からビッグダディの娘だからと言われて、人より頑張ってただけなんですけど。人と違うとみんな言うけど、私は私らしく頑張ってるだけだしな、というのはありましたかね。言いたいことはわかるけど。トップを走ってるんだから、それらしい選手にならないと。メインばかりやってるんだから、そういう選手にならないと。そういうのは、わかってましたけど。私は私らしく頑張らせてほしいなという気持ちはありました、けど、頑張ってました!」。
その後、2019年6月にイギリスの遠征でEVE王座から転落してから次々にベルトを落としていく。11月にアーティスト王座を獲ったものの2020年2月にはついに無冠となった。
「荷が降りたとかはなくて焦りましたね。ヤバイというのが強かったです。ベルトって強さの象徴なので、それがなくなってしまって、どんどん次のチャンピオンが出てきて、周りも上がっていく人がいて、自分の勢いが、成長が止まってしまうんじゃないかという焦りですね。他の人と考えは違うと思うんですけど。新しい技を使ったらベルトが帰ってくるとかはないと思うんですよ。基本だったり、技の一個一個をさらにレベルアップしていった方がいいなという自分の考えがあって。技を増やそうとか新しいことしようというのはなかったです」。

2019年、ビー・プレストリーの赤いベルトに初挑戦

ワールド・オブ・スターダム王座は9度防衛
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Utami Hayashishita
団 体トップの王者に
しかし、2020年8月にシングルの祭典5★STAR GP優勝、その勢いで、岩谷麻優を破り団体トップのベルトであるワールド・オブ・スターダム王者となる。「獲った相手が岩谷麻優だったので、団体のトップのベルトを岩谷麻優から獲れたのは嬉しかったんですけど。私はキャリアも少なくて、こんな私についてきてくれるファンの人が当時少なくて。団体トップのチャンピオンと認められるために強さを見せていかなきゃと思ってる時期でした」。
赤いベルトと言われるこの王座は2021年にかけて、渡辺桃、舞華、上谷沙弥、ビー・プレストリー、朱里、刀羅ナツコ、彩羽匠、葉月、舞華を退け9度防衛、その年の東京スポーツ女子プロレス大賞を受賞した。「ありがたいことに、光栄だなと思いました。たくさんの選手がいる中で。自分が頑張ってきたという功績が認められたことはすごく嬉しかったです」。
当時のライバルは「朱里さん、麻優さん、後半の方で舞華。それぞれタイプが違う。朱里さんは40分超えの試合をしてからは朱里さんとしかできないような死闘をずっとやって、どちらかが倒れるまでやり続ける。麻優さんは存在がデカイので。存在のデカさを私なりに越えなきゃ。舞華は自分とタイプが似ててパワー対決。熱い女で、同じタイプだったからこそ負けたくない。その3人とはどの試合もやってて楽しかったです。負けたくない、痛いとかの気持ちはあるんですけど、やった後は楽しいと思えました」。

上谷沙弥とゴッデス王座を2度獲得

団体生え抜きユニットでもあったQQのリーダーになる
ライバルの一人、岩谷麻優との激闘


2019年、アーティスト王座を渡辺桃、AZMとともに獲得。
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Utami Hayashishita
指導する立場に
しかし年末の両国で朱里に敗れる。そこからタイトル戦線から離れていくことになる。2022年5月から所属するユニットのリーダーとなり、指導する立場にもなっていく。
「QQのリーダーになってから自分よりもユニットのことを考えることの方が多かったですね。下の子の成長だったり。ユニット対抗戦でのし上がったりとかで。ユニットのこと第一で行動することが多かったです。自分じゃなくてユニットのことに目を向けた時に、スターダム内で、できる人とあまりできない人の差がすごく見えて。1つの大会、第1試合第2試合あんまりだったけど他は良かったよねという大会にはしたくなかったです。自分のユニットで手一杯だったので、自分のユニットだけだったんですが、上の人と下の子のレベルの差が縮まるように意識しながら指導はしてました。タッグマッチだと、後輩に試合の最後を任せたり。アシスト、サポートすることが増えた気がします。練習するときは、下の子の、この子のダメなところ、この子のダメなところ、というのを見て個別でリングで分けたりして、ダメなところを修復じゃないですけど。こうした方がいい、こうした方がいいという練習はしてました。立場が変わったとか、そんな深くは考えなかったです。ユニットを第一にと考えただけ。自分の立場が変わっちゃったとは思わなかったですね」。
林下が所属するユニット=クイーンズ・クエストは団体生え抜きの選手が集まるユニット。「個人個人、その気持ちはあったんだと思います。他団体からたくさんの人が来て。生え抜きなんて、そんなの関係ないという人ももちろんいますけど。生え抜きでスターダムで生まれたからこそという気持ちは、みんな個々に思ってることはあると思います。強い人が結果を残すだけなので。私はスターダムに出会いがあってスターダムでデビューしたので。私が勝手に、スターダムでデビューした生え抜きとして、私が引っ張っていくという気持ちはありました」。
そして2023年7月には「自分を見つめ直す」とアメリカに渡り、ROHやGCWに参戦。
「ずっとユニットのこと中心だったので、5STARが始まる前に、5STARの期間はやっぱり自分のためだけに頑張りたい。そのために行きました。初めて海外で試合した時、お客さんが熱狂的。日本も熱狂的なんですけど、お客さんの楽しみ方が違って。イギリスだったら試合中に歌って応援したりとか、アメリカだったら試合終わってスタンディングオベーションとかあって。やっていて自分が楽しくなる感じで斬新でした。違う場所で試合するという経験は良かったですね。みんなプロレスを楽しんでる。アメリカではいろんな人にお会いして。イオさんだったり。シェイナ・ベイズラーと会って。人としての強さを見たり、レスラーとしての強さを見て。シェイナとは技を1個もらって(変型サイドバスター=ショッキング・ベイズラー)というのはありましたね」。

2023年12月29日、密かに退団の意志表示をした

2024年5月20日、マリーゴールド旗揚げ戦はジュリアとメインで登場
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Utami Hayashishita
「自分の道を行きます」
帰国後、5★STAR GPに参戦したものの頚椎ヘルニアと診断され、長期欠場となる。
2023年12月に怪我から復帰後初のベルト(ゴッデス王座)を獲得。
そして、12月29日の年内最終戦で、「これからは自分の道を行きます」と言ってリングを後にした。「その時は辞める決意をしてました」。
当時、小川氏が新団体をつくるという噂が団体内に流れており「噂で聞いたので。たまたま移動が一緒になることがあって。こういう話を聞いたんですけどと言って。小川さんからは勧誘も何も言われてないんですけど。噂を聞いたんですけど、本当にそうなら私もついて行きたいんですけどと話しました」。
スターダムは毎年3月に契約更改となり、辞める場合は3カ月前に知らせるという約束事があったので、トラブル回避のための動きではあった。
小川氏の団体(現マリーゴールド)に移る理由は「小川さんの側でやりたいというのと、スターダムじゃできないこともたくさんあるだろうなと思って。いろんな他団体とかにもたくさん出たりだとか。自分がしたい相手、イオさんとかジャングル叫女とか。したい相手と試合できるのは、小川さんの作る団体だろうなというのがありました」。
スターダム退団の発表は3月、小川氏の新団体旗揚げ会見が4月、旗揚げ戦が5月。ジュリアとともに団体のエースの看板を背負うべく参戦となった。早々に両国国技館大会開催(7月)が発表され、6月には林下の憧れの存在でもあるWWE所属のイヨ・スカイ(紫雷イオ)とのシングル戦が両国で行われることが発表された。

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Utami Hayashishita
憧れのイヨ・スカイ戦が実現
「自分がイオさんを見てかっこいいと思ったのが、入場から試合中、退場まで、全部かっこいい。凄い人と思って惹かれたので、私もプロレスラーで。イオさんみたいに飛んだりとかできないけど、入場から退場まで、常にかっこよく。いい意味で手の届かないスターのような存在で。というレスラーでいること、そういう目標を掲げながらやってました。シングル戦が決まった時は嬉しかったです。プロレスファンの頃からの憧れの人とできる。本当に嬉しかったですね。嬉しいが一番なんですけど。カードが決まってから当日まで。緊張する、頑張る、大丈夫かなと心配する、でも嬉しい、でも心配だなと一人で頭の中グルグルしている時はありました。紫雷イオに憧れてスターダムに入った林下詩美という存在が、こんなにデカくなったというのを本人に知ってもらいたい」。
試合は、イオも久しぶりに日本スタイルで臨み、WWEでは禁じ手になっているパイルドライバーなども繰り出す熱戦となった。
「私が緊張してたので、あまり話せなかったんですが。イオさんは毎回試合する度に満足したことがないらしくて。次はもっとこうしようというのがあるらしくて。そういうふうに頑張っていってほしいと、試合後に言っていただきました。その通りだと思う。頑張って、もっと大きい存在になって、またリングでもっと成長した姿で会いたいと思いました」。
旗揚げから2カ月、早くも、自分の夢の一つは実現したものの、団体内ではベルトも巻けず無冠、一部メディアではスランプとも書かれていた。
「私はスランプとは言ってないですけど。ジュリアがいなくなったりとか、私は何も変わってないですが。試合でタイトルマッチとかがなくて。大きな結果が出てないので、そういうのに焦ってる時期ではありました。トップにならなきゃなとは思ったんですが、最初はジュリアがいて、いなくなっちゃったので、その穴を埋めるためにもっと頑張らなきゃなと思ってました」。

念願のイオ戦が両国で実現
バックステージでイオと会話する


シングルの祭典DREAM STAR GPで優勝。

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Utami Hayashishita
マリーゴールドのエースへ
そして8月からシングルの祭典DREAM STAR GPが始まり、優勝を果たした。
「マリーゴールドにきてやっと出せた大きい結果なので。安心したじゃないですけど。まだそこで終わりじゃないんで、頑張んなきゃいけないですけど。やっと残る結果を出せれたなという安心感はありました。マリーゴールドのエースになる道のりの始まりをやっと作れたなという気持ちでした。優勝して大復活とは思ってないので1月3日の大田区でベルトを獲ってから、やっと大復活、マリーゴールドのエース・林下詩美なのかなと思います」。
年が明け2025年の初戦が1月3日の大田区大会。林下は初代王者のSareeeを破り、団体トップであるマリーゴールド・ワールド王座を獲得した。
「(ベルトを獲ったのは)もちろん嬉しい。嬉しいっていうのも、もちろんデカいんですけど、その中にはやっぱり、これから改めて本当に私のエース時代が始まるっていう責任感もあれば、やっとここまで来たかったっていう苦しさもあって、本当にいろんな感情でいっぱいの時期です。エースとしては、まだやっぱり経験不足な選手もいるので。今までは自分は背中を見せて、までだったんですが。これからは背中も見せながら、積極的に指導しながら自分のできることで、みんなに成長してもらい、で、私が大きい背中を見せることによって、下の子がそれを見て、 もっと大きくなっていって、そしたら、そのままマリーゴールドっていう団体が大きくなって、日本で1番の女子プロレス団体になっていくと思うので。団体全員に目を向けて、今までは、林下詩美個人としてだったんですが、マリーゴールドの林下詩美として、責任持って団体を大きくしていきたいと思います。女子の中でトップになるというのを、それは当たり前にみんなで目指していきたくて。その中で一人ひとりの意識がもっと高くなって、もっとレベルの高い団体にしていって。みんなのレベルが高くなったところで、自分がトップを走るような、そんな団体にしたいと思ってます」。

2025年1月3日、MARIGOLDワールド王座を獲得

WWEに移籍したジュリアの壮行試合も熱くぶつかった
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Utami Hayashishita
闘いたい相手
チャンピオンロードが始まって、防衛戦の相手として闘いたい相手を、実現度を度外視した妄想も含め挙げてもらった。前王者のSareeeと憧れの存在であるIYO SKYを除くと
「まずMIRAI。昨年のDREAM STAR GPでシングルで負けてしまったままなので、負けて発破をかけられたままなので、チャンピオンとしてまた改めて再シングルしたい。
そして青野未来。マリーゴールドに来てそんなに多くないパワーファイター、多いのか。パワーファイターの中でラリアットでぶつかり合い。青野未来のラリアットはすごく衝撃が強くて、私のパワーファイターとして負けたくないと思えるし、すごくやぶつかり合って楽しいと思える人なので、ベルトをかけて最高の試合ができる人だと思います。
桜井麻衣。本人が言われてどうかわからないけど。私の中でやっぱりジュリアの狂気を、遺伝子を受け継いだ者として、やっぱりマリーゴールドに来てひと皮ふた皮剥けてる選手だと思うので。未だ成長止まらない、進化が止まらない桜井とベルトをかけて、前はDREAM STAR GPの決勝だったので、今度ベルトをかけて試合をした時にまたどんな狂気を見せてくれるのか。ワクワクさせてくれる選手。マリーゴールドでは以上かな。
あとはほんとに私の個人の妄想。東京女子の山下実優さん。東京女子が個人的に好きで見ている時に、蹴りがすごい方、かっこよくて。多分私はかっこよくて強い人に惹かれるので。
で、山下りなさん。この方もやっぱりかっこよくて、すごくて。デスマッチまでされてる方。 デスマッチアマゾネスでしたっけ。しかも世界でも活躍してる山下りなとぶつかり合い会える日が来たら、すごく私のプロレス人生もまた一層幅が広がりそうだと思います。
VENYちゃん。1度シングル戦ったことがあるんですが。プライベートでも大好きで。リング上でも大好きなVENYちゃんとタイトルマッチができたら。大好きな人と大好きなベルトをかけて、大好きなプロレスができるなんて、こんな幸せなことはないと思うので、これもしてみたいです。
誰と特定の方とは言えないんですが。私の前団体のライバルかな。名前出すとあっちにも迷惑かけるかもしれないので。
最後はジャングル叫女。私のデビュー戦の相手。私の初めてのライバルで、永遠のライバルだと思ってます。今はプロレスしてないけど、 絶対にこのベルトかけてジャングル叫女と試合がしたい」。
DREAM STAR GPで好勝負を演じたNØRIは?と問うてみると「したいけど、NØRIさんは。なんか今パっと思ったので、どちらかというと隣に立ってもらいたいって気持ちの方がちょっとありますね。年も同い年なので、なんか隣に立ったら ちょっといいんじゃないかなと思っております」。
(取材・撮影=山川隆一)

さっそくエースとして、防衛ロードが始まった
