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Image by Olga Tutunaru

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Interview

No Guarantee vol.7掲載(2013年発行)

村上桃子(脚本家)

たぶん、作品名を聞くと「あー」と思われる方もいるのではないだろうか。

松坂桃李、向井理、篠田麻里子といった今をときめく人たちが出演していた作品に

脚本というかたちで関わっていた。

日常にある普通を、

小説から脚本から、

表現していく。

Interview

Momoko Murakami

ありえないデビュー

その肩書きは、ライター、脚本家、小説家。いわゆるモノ書きだ。

「就職先が芸能プロダクションで、モデルのマネージャーを3年半やっていました。仕事は楽しかったんですが、つくる仕事がしたいなと思うようになったんです。チーム作業は苦手なので笑)、ミニマムでできる創作活動はなんだろうと考えたときに“書き物”があるなと。試しに書いてみようと思い知り合いから古いパソコンもらって書いてみたんです。せっかく書いたんだから、賞に応募しようと思って送ったら意外と良いところまで残ったんです。全くセンスがないわけじゃないんだなと思って笑)。そこで、ちゃんと勉強してみようと。小説って勉強っていう感じじゃないなと思っていたところ、『シナリオセンター』の8週間講座というのをみつけて、通ってみました。その2カ月間とても楽しかったので、その後も続けて通うことにしたのですが、会社に勤めながらだったので、土日はスカウトに行ったり、モデルのレッスンにつきあったりとかで、授業をお休みしがちでした」。

そして、会社を辞めたタイミングで、本格的に通い始めた。

「シナリオセンターは、課題の20枚シナリオを50本書くとライターズバンクというものに登録できて、コンペに参加できる資格をもてるんです。あるとき、『引っ越しと恋』をテーマにした短編小説募集というコンペがあって。締切まで5日間くらいしかなかったんですが。当時、会社もやめて時間があったので、あらすじだけじゃなくて短編小説をまるまる一本書いて応募しました。それを、出版社の社長が気にいってくださって、もともと、短編を別々の人が書いて一冊にする予定だったんですけど、スケジュールが可能なら全部書きませんかって言ってくださって。あらすじを7話分考えるのに2日。で、約1週間で書き上げました」。それがデビュー作品の『恋するマドリ』だ。いきなり小説デビューできるなんて、普通はないことだ。モノ書きになろうと思ったことはなかったし、学生時代も文学少女ではなく、ほとんど本を読まなかったという。人の未来は、わからないものだ。また、ラッキーなことに、すぐに映画『東京少年』のノベライズの仕事も決まり順調なすべりだしだった。

1年後には、ドラマの脚本デビュー。

「シナリオセンターの所長がTBSのプロデューサーを紹介してくださったんです。竹内まりやさんのデビュー30周年記念アルバムの発売にちなんだドラマでした。3夜連続のうちで『カムフラージュ』をモチーフにした20代をテーマにしたものを担当させていただきました。そのとき30代を担当していたのが、いまNHKの『八重の桜』を書いている山本むつみさんでした。デビューでいきなり脚本で地上波のドラマを書かせてもらうなんてなかなかないことで、本当、感謝しています」。

通常は、企画書やプロットを何本も書いていくうちに書かせてもらうケースが多い。「デビューはさせていただいたんですけど、その後、プロットの仕事もさせていただきました。スケジュールは厳しい。本数が多いと大変でしたが、やってよかったと思っています。いまも勉強中だと思っていますので」。

その後は、オリジナル小説、ドラマ、舞台、映画、アニメの脚本や映画のノベライなど様々なジャンルで活躍。「何をやりたいかと聞かれれば、オリジナルの映画の脚本をやりたい。理想は、自分が書いたオリジナル小説が映像化され、その脚本を自分で書くこと」。

「出版業界は不況なのに、自分の本が書店に置いてあるのを見ると、いまだに不思議な気分。かたちになるのって、本当にありがたいなと思います。自分で脚本を書いて、小説にしたのは『5年後のラブレター』と『グッドカミング』。小説と脚本の両方やっている人は珍しいらしく、脚本を小説化しようとしたときに別のライターをたてなくてもいいので重宝がられます」。小説と脚本では、その表現の仕方に違いがあるはず。そこを難なくこなしているのも大きな武器になっている。

 

「どちらを書くときも映像を浮かべながら書いていますね。映像も小説も基本的な作り方は似ています。キャラをつくったり設定をつくったり構成をつくったり。映像は画をみせればいいところを、小説は言葉で説明しなければいけません。文字で読む響きと台詞の言葉の響きの違いがあるので台詞が変わってくるときもあります。脚本も小説もどっちも好きですね。小説の場合、難しい文章は苦手なので、わかりやすい言葉で書いています。だからなのか読みやすいって言ってもらえます」。最近はアニメの脚本も手掛けていて「アニメは『プリティーリズム』という竜の子プロの仕事から始まってジャンプに連載されている『スケット・ダンス』なども書かせていただきました。アニメも楽しいんですよ。宇宙空間とか、設定の自由さがあって。小さい子が大きくなって、子供の頃見てたんですって言われたら嬉しいですね」と楽しそうに語る。

Interview

Momoko Murakami

日常にあるドラマを表現したい

ひととおりのジャンルを手掛けてきたが、自分から提案したオリジナル企画がかたちになるのは、なかなか難しいという。そんな中、嬉しい出来事があった。

「1月にBSジャパンで放映された『佐藤家の朝食、鈴木家の夕食』。もともと、個人的に書いていたものなんです。いつか映像にできたらいいなと思って温めていた作品。数人のプロデューサーに持っていったんですけど、いろんな条件から難しいと。そんなとき、『グッドカミング』の監督の月川翔さんが、脚本を募集されていて、送ったら気にいってくださって。自分発信の脚本が初めて映像化されたんです。このようなオリジナル脚本が通ることはなかなかないので、私の中では意味のある作品になりました。今後自分がやりたいのは、同年代のリアリティのあるゆるい恋愛もの。だけど地味でなかなか企画が通らないんです。いっけん地味に見える日常にもドラマってあると思うんです。そいういのを描けたらいいなと思います。私はよくも悪くも普通の感覚を持っていると思います。だから共感されるのかもしれません」。

いわゆる文章や文字をとおした表現なので、読者や視聴者、鑑賞者とダイレクトに接する機会は少ない。「最近、別の名前で、子供むけの小説を書いているんです。そうしたら、小学生からファンレターをもらいました。“グっときました”って『グっ』のところに赤いアンダーラインがあって笑)嬉しかった。『5年後のラブレター』のときも、“感動しました”などのメールをくれた読者の方が多数いました。『グッドカミング』では、舞台挨拶させてもらったんですけど、ファンですって言ってくれる人がいたんです。対面でいわれるとめちゃくちゃ嬉しい。リアルにファンの方と接する機会がないので、身内以外に本当にいるんだって笑)」

最後に、日常のリアリティを表現するための秘策を聞いてみた。

「友達の会話や経験談はいいスパイス。面白いと思ったら、エピソードを反映させたりとかはします。メモをとるわけではないんですけど。みんなブレインノートとかつくっているみたいですけど、私は特にしていません。話を聞くのは好きなので、老若男女問わず恋愛相談とか人生相談とかされやすいです。こちらも興味があるので聞きます。女友達の会話はえげつないですよ笑)、でもそれが本音なんだなと思います。あと、作品づくりをしているクリエイターの友達と会うと、こういう見方があるんだとか刺激になります。それらが“ネタ帳”ですかね。映画も見たい。舞台も見たい。旅行も行きたい。この仕事って、経験を活かせるし、興味あることをしていたいです。いままで急ぎの仕事が多かったので、理想は、年に1本ぐらいオリジナルの映画をじっくり書けたらいいなと思います。それじゃ、食べていけないんですけどね笑)」。

取材後、「5年後のラブレター」を取り寄せて読んだ。涙がこぼれるのを我慢できなかった。主人公のように、こんなに人から愛されたら、人にも優しくなれるだろうし、愛情を注ぐこともできるんだろうな。彼女のオリジナル作品に共通しているのは、「ピュアな恋愛=純愛」。心が洗われる。この人のまわりには、きっと愛情あふれる素敵な人たちがいるんだろうと思う。そうでなくては、こういう作品は書けないのではないだろうか。

取材=山川隆一

写真=吉田武

プロフィール

関西大学文学部中国文学科卒業。2007年、「恋するマドリ もうひとつの物語たち」で小説デビュー。オリジナル小説:「顔のない王子様」「5年後のラブレター」「グッドカミング〜トオルとネコ、たまに猫〜」shortshort film festivalミュージックshort部門シネマティックアワード優秀賞受賞)。ノベライズ:「東京少年」「恋の罪」「洋菓子店コアンドル」脚本:BSジャパン「佐藤家の朝食、鈴木家の夕食」舞台「銀河英雄伝説」NHK「恋する日本語」TBS「君のせい」KBC「福岡恋愛白書」MBS「マッスルガール!」TV東京「プリティーリズム」TV東京「スケット・ダンス」MX「みなみけ ただいま」ほか多数。

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