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スターダムで再会した なつぽいと安納サオリの物語  2023.07.02



2023年7月2日、スターダムの横浜武道館大会のメインは、なつぽいと安納サオリのインディアン・ストラップマッチ。昭和のファンには懐かしい形式の、かつてはワフー・マクダニエルという名手がいたデスマッチルール。現在の感覚だと、デスマッチというより、ゲーム性の高いルールと受け止められるかもしれないが、相手をフォールした後、4つのコーナーをタッチして一周したら勝ちというもの。試合は、互いに感情剥き出しの激しい闘いとなり、互いにフォールを奪いあったが、最後は、安納が勝利した。

試合後も何故かストラップを外さずに取材を受ける二人


なつぽいと安納サオリは、2015年5月31日にデビュー。デビュー戦ではタッグで対戦している。その後、安納がスターダムに参戦するようになり、追いかけるように、なつぽい(当時のリングネームは万喜なつみ)もスターダムに参戦した。なつぽいは、運動神経の良さから5★STAR GP(2016年)にも抜擢。安納は期待の大きさを表すように「チャレンジマッチ」で、紫雷イオ、宝城カイリ、岩谷麻優、美闘陽子ら当時のトップ勢と対戦。二人は順調にポジションを掴みつつあったが、団体間のトラブルで、スターダムへの参戦がなくなった。
その後、なつぽいと安納は、団体内で「ツートップ」と呼ばれ、絶対的なポジションをとっていた。2018年に新設されたシングル王座の初代王者は安納が獲得。二人のシングル戦(2016年から2018年にかけて3度行われている)は全て安納が勝利。ツートップの差は徐々に開いていく。

安納はスターダムでチャレンジマッチを行う



なつぽいは、2018年に退団を決意。2019年からは東京女子に活動の場を移し、新設されたインターナショナル・プリンセス王座の初代王者となり、自身初戴冠を果たした。そして、2020年のコロナ禍の中、当時、プライベートでも仲が良かったひめかを追うように、スターダムに参戦。2021年、ハイスピード王座、アーティスト王座を獲得し、競争が激しい団体内で、自分のポジションを掴んでいった。

インターナショナル・プリンセス王座の初代王者になる

一方の安納は、2017年に復活したPOP王座、2018年にAWG王座、2019年にはOZアカデミー・タッグ王座を獲得するなど、順調にキャリアを積んでいった。しかし、2019年いっぱいで退団。その後はフリーとして活動、コロナ禍という向かい風があったことも一因ではあるが、2022年にICE∞王座を獲得するまでは、なかなか成果に結びつかなかった。そして、2023年3月19日、ICE王座から転落した。

自身初戴冠のPOPベルト獲得


2023年4月2日、安納サオリはKAIRIの呼び込みでがスターダムに登場した。そこでKAIRIはなつぽいも呼び込み、トリオで4.23横浜アリーナでアーティスト王座への挑戦を表明。以前、この三人は「stArt」というユニットを組んだことがあった(2016年)。活動期間は短かったが、縁のある組み合わせ。ユニット名を「REstart」にして、早速、タイトルも獲得したが、初防衛戦で敗退。この王座転落の時期と合わせ、なつぽいと安納の関係がギクシャクし、インディアンストラップマッチへとつながっていった。

スターダムとアクトレスの合同ユニットstArt

2018年10月以来のシングルマッチ。二人が交わることはないように思われていただけに、驚きの展開ではあった。
戦前の二人は、

なつぽい「私にとってサオリ以上っていない。サオリ以上に負けたくないと思う人いないし、どこにいても意識しちゃう存在だし。サオリのことを見ると、頑張ってる姿を見ると嬉しいけど、嬉しいより悔しいだし、なんか自分のそういう性格の悪くなっちゃうところとか、なんか小っちゃいなとか、みじめだなとか、そう思う感情になりたくないの。私は、サオリに何もかも負けたくない。リングの上だけの勝ち負けとかそういうことじゃないんだよね。リングの上で闘ったら分かり合えるんじゃないとか言うけど、分かり合うとか分かり合ってても、分かりすぎてんだよ。でもサオリにスターダムに来てほしくなかった。そういう気持ちになるのがイヤだし。また抜かされるのかなとか、もう負けるのがイヤなの!」

安納「私は、いまでもスターダムのリングに上がってることを当たり前と思ってない。さらに輝くために来たって気持ちは変わってない。上がってなかった数年間、ずっと見てたよ、なつみのこと。どんどん輝くなつみを見て、私は何やってんやろとすごい思ったし、同期、元パートナーは大舞台ですごい輝いてるのに何してんやろうって。でも、私は私で輝く道を少しずつやけど進んできたし、それは胸張って言える。本音言うと、スターダムのリングで一番気になったのはなつみと会うこと。なつみとどう向き合っていいのかなって思ったし、うまく話せるのかなとか、すごい思った。でもやっぱ落ち着くんだね、なつみといると。なつみがスターダムに上がったのを見たのがメッチャイヤやったし、なつみのこと見るのもすごいイヤだった。でも見なあかんと思って見たし」と、その想いを語っていて、本音を隠せない、やりとりが行われた。





試合後のコメント

なつぽい

―複雑な思い?

「正直、スターダムにXが来る、帽子の女は誰だ?いろいろなる度に、あっ、とうとうサオリが来るんじゃないか、次こそサオリなんじゃないか、ファンの人が安納サオリジャないかと騒ぐ度に、私の心もザワザワ騒ぐような日々で、予期せぬ時に唐突にXじゃなく、KAIR Iさんが連れてくる、不意打ちだったんですけど。サオリがバッと現れた時に、もう、とうとう恐れてたことが、来てしまったかという気持ち。本当の正直な気持ちで言うとスターダムに来てほしくなかった。
プロレス人生というわけじゃなくて、今の私が、サオリと向き合う自信がなかったんだと思うんですよ。だから、もっと差をつけて、もっと手の届かないような存在になってから、何なら、私が一番憧れている、白いベルトを巻いたら、逆指名してやろう。それぐらい差をつけてから向き合いという、弱気な自分がいたんですね。だから、来た当初は、本当にガクッと、愕然とするみたいな感じでした」

―REstartのメンバーだったからまだマシ?

「サオリという存在が特別すぎて、誰と来ようが一人で来ようが、サオリがいるっていうことで、私はサオリしか見えなくなってしまうので。むしろ、KAIRIさんが連れてきたことで、断れなくなる。急にアーティストをこのメンバーで狙うよと言われた時は、えっと思ったけど、断ることもできない。複雑な思いがある中で強行突破で組み始めた。サオリに対する気持ちとか、サオリの存在というのは変わりない感じですね」

―年齢の関係もあるかもしれないけど、自分から下に来ちゃってる印象もある

「やっぱり、自信だと思うんですよね。私って、一人でピョンピョンピョンと飛んでる時は、すっごい飛べるんですよ。だけど、周りを見てしまったり、一番のライバル、一番気にする存在が目に入った瞬間に、急に落ちてしまうんですよね。周りを気にするというか。周りを気にするということが、私の弱点だったんですけど。でも、生きてきて、スターダムという強敵がたくさんいる中で、なつぽいという存在を確立してきて、今、すごく自信に溢れてきた時に再びサオリという存在がが来てしまったので、サオリを見ると、自分の弱点の時に戻ってしまう。弱気な自分に戻ってしまう。ある意味、サオリという存在がコンプレックス。だったのが今までの私で。
まだ足りなかったのか。今までだったら、何が足りない?どこが負けてますか?という感じだったんですが、今は、何かスカッとして。サオリは、追っかけるんじゃないんですね。私は私で、強さとか、最強というものを、もっともっと求めて、今のなつぽいというものを、もっともっと大きくするのみだと思うし。それを信じて、自分を信じて飛び続けてたら、絶対にサオリにも勝てるし、スターダム最強にもなれるし、私が絶対欲しいベルトも手に入る。何かもう、自信が今、芽生えて、サオリと対戦することによって、そのコンプレックスが軽減されたというか。むしろゼロではないかもしれないけど、本当に軽減されたから。今は向き合ってよかったと思うし、今、サオリと向き合えたことが、より、これからの自分を強くする、成長させてくれると感じたから。負けてしまったけど、サオリと向き合うことができて本当によかったと思います」

―見た印象は互角。勝ち負けを超えた試合という印象でした。

「嬉しい!それを感じながら試合ができた気がして。切りたくても切れない紐見たいな、何かサオリとはあるなと感じるし」


安納サオリ

―遠回りだった気もするけど、ようやく来ましたね。

「その遠回りは、私にとって、歩まなきゃいけない道だったんだなと思ってて。もちろん、苦しかったし、しんどかったし。逃げ出したい時もあったけど。今、振り返ってみて、歩んできた1個ずつの道、すごく良かったと、すごく思いますね。きっと、それがなかったら、安納サオリというのは、今、こんな感じじゃなかったんだと思うし。もしかしたら、遠回りという形を通らなかったら、また、違う安納サオリになったかもしれないけど、私は、今の安納サオリを誇りに思います。自慢できると思います」

—OZ、アイス、スターダム、それぞれの中での序列があって、安納さんはちょっと違うポジションにいると思いますが。

「私は、上とか下とか気にしないタイプですし。今回、スターダムに出ることで出会えて、出会いたかった選手、久しぶりに出会えって良かった選手がたくさんいるんで。まだまだ闘ったことのない選手はいっぱいいる。出会いたくなかった選手もいます」

—なつぽいへの想いは、ブログに書いていた通り?

「嫉妬ですよね、輝いてたから。めちゃくちゃ輝いてたから。元パートナーで、一緒にデビューして。そんな輝いてるなつみの話を聞くのが。。。でも、出会わなければ、この感情にはなってないし、こんな自分も出てこなかったし、きっと、なつみとまたこういうふうに向き合うことがなかったから、出会ってよかったし、私は、スターダムのリングに立つ選択をしてよかったと思います」

―スターダムのビッグマッチのシングル、メイン、相手がなつぽい。感慨深いですね。 

「面白いね、人生って。プロレスラーになって8年、こんなことになるとは思ってなかったし。続けてたら、こういうこともある。こういう出来事がある。私の夢は、ずっと言ってますけど、何千人、何万人の前に立つ、少しずつ叶ってきてるんですけど。今日もメインイベントに立って。なんか、自分の中で、感動とかあるのかなと思ったんですけど。まだ、もっとと思いながら、リングを降りました。これもそう、なつみに対する思いもそう、自分に対する夢もそう。プロレスラーでいる限り、一生、満足しないんじゃないですかね。私は」

―プロレスの世界は広げようと思えばいくらでもできますね。

「今日はね。私は目の前のことが終わらないと次の目標が立てれないんですよ。今日は、もっともっと、となった。それ以上のことは、今は思いつかなくて。今日は、仲間のことを、余韻に浸ろうかなと。今日だけは」


安納は、この試合後、コズミック・エンジェルズの正式メンバーにも加わった。5★STAR GP 2023にも初参戦。フリーの立場で、スターダム以外のリングにも上がり続けている。

そして、8月13日大阪で、ゴッデス・オブ・スターダム王座を獲得。二人で同じベルトを巻くのは初めてのこと。1年前にはとても考えられなかった光景だ。

再び、交わった二人のストーリーが、どう展開していくのか、楽しみである。

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Image by Olga Tutunaru

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