2020年9月のデビュー以来、一度も勝っていないということで、注目を集めている月山。シングルだけでなく、タッグマッチでも勝てていないのも不思議な現象だが。日本のプロレスの世界での連敗記録は、川田利明の205連敗、佐々木健介の203連敗というものがある。女子では、ミミ萩原が87連敗(実際はデビュー13戦目で勝利)ということになっている。スターダムでも、今やトップクラスの“スターダムのアイコン”岩谷麻優もタッグも含めた初勝利まで1年1カ月を要していた。
スターダムには、2021年9月から参戦。初戦で、当時ウナギ・サヤカが保持していたフューチャー王座に“査定試合”として挑戦。9月11日から月山の「スターダム・チャレンジ」がスタート、1カ月間で、中野たむ、白川未奈、朱里、岩谷麻優らと対戦。レディC、桜井まいとの闘いも含まれた。その後、中野たむ率いるユニット、コズミック・エンジェルズに加入した。2021年11月には、琉悪夏に3WAYでフューチャー王座に再度挑戦。2022年7月9日には、羽南のフューチャー王座に挑戦した。見方によると場違いとも言えるアピールで、対戦要求を行い、タイトルマッチを実現させてきた。通常の試合でも勝利していないにもかかわらず。高橋奈七永との「パッション注入マッチ」も自らのアピールで実現に至った。
1月21日の「パッション注入マッチ」では、ミサイルキック7連発などで健闘。試合後に、高橋が観客に「どちらにパッションを感じた?」と問うと、月山の方に拍手の数は集まった。さらに、高橋は「なんでこんなにも勝てないんだよ。こんなに、お客さんが応援してくれていて、なんでその気持ちに応えられないんだよ!コズエンの人たちが、温かく見守っていて、なんで勝てねーんだよって。私、考えた。でも、その考えとか答えを私が言ったところでアンタの答えにはならない。オマエがオマエ自身で、やっぱりつかみとらないとダメだよな。だから私が一つ言えることは、オマエはオマエを信じろ。もっともっと自分を信じて必ず勝利をつかめ。すごく気持ちはお客さんに伝わる選手だと思います。私も気持ちひとつでここまできて26年になるので、大事な根っこ、パッションですよね。パッションというものは感じました」とエールを贈った。
翌22日には、ジュリアの10人掛けマッチのラストに登場し、3分間必死に攻め続け、引き分けに持ち込んだ。スターダム参戦後、初の引き分け。ジュリアからは「月山、なんかオマエどことなく中野たむ味を感じたよ。オマエの師匠も、ドン底から這い上がったんだぜ、知ってる? 諦めなかったら、いつか必ず勝てる。そして大事なのは、その先。オマエも早くコッチ側に来いよ。月山、オマエは大丈夫だ。今日オマエにオレ負けそうになったもん。グロリアスドライバー、オマエ返してたもん。マジか!と思って、引き分けになっちゃった。いろいろあーだこーだ言うヤツなんかクソ食らえなんだよ。んなもん気にすんなよ。もっとプロレス楽しもうぜ」とこれまたエールを贈られた。
2023年のトライアングル・ダービーでは、古巣の仲間でもあった網倉理奈、櫻井裕子とのチームで参戦。精神的な繋がりのある仲間が近くにいることは、大きな支えになる。こんなに多くの人から応援されている。応援される状況になっている。誰もが、月山の初勝利を望んでいる。とても珍しい状況と言ってもよい。
小川PDは「今は、初勝利がテーマになってるけど、本来プロレスはそれだけがテーマじゃないので。まずは、それを乗り越えていかないと次に進まないと思う。(スターダムに)来た頃に比べれば、だいぶタフにはなってきてるけど、まだまだ新人レベル。ただ、積み重ねることが大事。本当は、若さが欲しいところだけど、それを言っても仕方ないので、とにかく、がむしゃらにやるしかない」と評する。
月山自身は「私がずっとプロレスを続けてこれてるのって、もちろん折れない心、信念もそうですけど、大切な仲間たちに恵まれて、応援してくださるファンの方たちに恵まれて、だから続けてこれてるんだと思うんですね。なかなか3年近く勝ったことがなくて、続けてる人ってそんなにいないと思うんですよ。今日、パッション注入マッチで、みんなお休みの中、たむさん、未奈さん、あーみんさん、裕子さんがセコンドに駆けつけてくれて、私は、本当に人には恵まれてると思います。ファンの人たちもそう。みんなが応援してくれるから、明日も頑張ろう、次も頑張ろう、来月も頑張ろうって、その積み重ねで3年が経とうとしています」と振り返る。
初勝利の後にどうしたいのか?これまでも、ジュリアや高橋からも問われていた。「勝ってないうちから、勝った後の話をするとちょっと生意気かもしれませんが、いくつか考えてることがあって。私は、プロレスを仕事にしていて、好きだからやってる仕事なんですよ。それをもっと世界に広めていきたい、世間に知ってもらいたい、というのがあります。そのために私ができることを考えていて。もちろん試合面で今後どうするというのもあるけど、それに限らず、もっとプロレスを広められるような観点から考えてることはあります。情報発信だとか、会社にやりたいことがあったら提案するとか。していけたらなと思いますね。経験ってあるじゃないですか。悔しい経験をしたり。そういう人が、月山はこんなに負けていても、前向きに明るく元気にプロレスが好きだとプロレスという仕事が好きだと言える、それを、ちょっとでも、ちょっとでも、脳裏にちらっとでもいいから覚えててくれたらいいなと思います」。実際、試合中継の英語解説を務めたり、新日本プロレスのアメリカ遠征で試合を組まれたり、経験値を拡げるチャンスを得ている。
高橋奈七永戦について「奈七永さん頑丈すぎます。試合したらわかる。奈七永さんはリング上だと弱みを見せない。でも人間だから、弱みの一つや二つはあるじゃないですか。実際、うつ病を公表されていて、でもそれをリング上では見せないんですよ。闘いだからって。私は、それは、めちゃくちゃかっこいいことだと思っていて。世の中の人って、嫌なこととか、苦しいこととかたくさんある。でも、それと闘いながら日々生きてるわけですよ。奈七永さんなんか、闘いの中の闘いにいる人。リング上では弱みを見せない。キャリアも長い。きっと私よりも痛いところはいっぱいある。でも、そんなの微塵も見せない。それってめちゃくちゃかっこいい。そんな姿に元気をもらったんですよ。だから、また試合したいと思ったし。させてほしい。この2カ月の間に勝っておかないといけない。なんとか勝って、コズエンの仲間と一緒に喜びたいので」
人にはいろんな成長過程がある。足早に這い上がることもあるし、時間を掛けて地道に一歩一歩変わっていくケースもある。時間をかけたからこそ見える風景もある。月山は、ある意味、誰も見たことがない風景を見てきているのかもしれない。
「勝ったことないから、勝った時どうなるんでしょうね。果たして、喜べるのかな?だって、勝ったことないから。周りの人が笑ってたら、一緒に笑えばいいのか。早く勝ちたい!」
周囲からの応援が高まっている中、初勝利を得ることができるだろうか。月山の初勝利の後に来るものが何なのか。今は、その時が来るのを、楽しみにして待とうではないか。
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